M&Aトラブルとは?主な種類と解決策を弁護士が徹底解説

  • M&Aデューデリジェンス

多額の資金が動き、経営権という強力な権利が移転するM&Aには、常に複雑なトラブルのリスクがつきまといます。

本記事では、M&Aにおけるトラブルの主な種類と、それらを未然に防ぐためのポイント、さらには万が一紛争が発生した際の対応について、金融機関出身の弁護士が詳しく解説します。

M&Aトラブルの概要と影響

M&Aトラブルとは何か

M&Aトラブルとは、株式譲渡や事業譲渡のプロセス、あるいは取引完了後において、買い手と売り手の間で生じる予期せぬ対立や紛争を指します。これらの問題は、譲渡対象となる会社の実態に関する情報の不足や、事前の説明と実際の状況が異なっていたことなどを理由として発生します。

多くの場合、仲介会社を通じてマッチングが行われますが、仲介会社はあくまで中立的な立場で取引を支援する存在であり、法的な権利義務の確定や紛争解決の責任を負うわけではありません。そのため、最終的には当事者である経営者自身が、専門家の助けを借りて法的な対応を検討し、解決を図る必要が生じます。

M&Aトラブルが企業に与えるリスク

トラブルが発生した場合に企業が被るリスクは、単なる金銭的な損害にとどまりません。まず、紛争の解決に多大な時間と労力がかかるため、経営者が本来の事業に集中できなくなるという大きな損失が生じます。また、買収後に重大な簿外債務や法的な不備が判明した結果、期待していたシナジーが得られず、買収価格が不当に高かったという事態を招く可能性もあります。

さらに、従業員や取引先に対して動揺が広がることで、組織の求心力が低下し、優秀な人材の流出や取引の縮小を招くケースも少なくありません。一度失われた社会的信用を取り戻すのは容易ではなく、最悪の場合、事業の継続そのものが困難になるリスクも孕んでいます。

M&Aトラブルの主な種類

M&Aにおけるトラブルは、取引の各段階において異なる性質を持って現れます。ここでは、実務上で特に注意すべき事例を紹介します。

契約関連のトラブル

契約におけるトラブルで最も代表的なものは、表明保証条項の違反に関する問題です。表明保証とは、売り手が買い手に対し、対象会社の財務状況や法務上の状況が正確であることを保証するものであり、最終的な契約書における中核的な条項となります。

例えば、譲渡後に多額の未払い残業代や税金の滞納が発覚した状況において、売り手が事前にこれらを適切に開示していなかった場合、買い手は表明保証違反を理由として損害賠償を請求することになります。また、株式の譲渡制限に関する手続きが行われていなかったり、主要な取引先との契約に経営権の変更による解除条項が含まれていたりすることで、事業の前提が崩れてしまうケースも後を絶ちません。

デューデリジェンスでの見落としに関するトラブル

デューデリジェンス(DD)は、買い手が対象会社のリスクを事前に認識するための極めて重要なプロセスです。しかし、限られた期間内で行われる調査では、全ての情報を網羅することが難しく、詳細なリスクを見落としてしまうことがトラブルの原因となります。

特に中小企業の案件では、資料の整理が不十分であったり、経営者の頭の中にしかない情報があったりすることも多く、専門家による詳細な確認が欠かせません。例えば、過去の不適切な会計処理や、取引先との口頭ベースの合意による過度な負担などが、後になって大きな問題として浮上するケースがあります。こうした調査の不足は、結果として買収後の経営に深刻な影響を及ぼし、買い手側が売り手側の説明義務違反を追求する事態に発展します。

PMI(統合プロセス)におけるトラブル

取引自体が無事に終了したとしても、その後の統合プロセスであるPMIにおいてトラブルが発生することがあります。買い手と売り手で経営理念や社内ルール、人事評価制度が大きく異なる場合、現場の従業員の間に不満が蓄積し、離職者が相次ぐといった状況に陥る可能性があります。

また、売り手側の経営者が引退した後に、顧客との関係性が維持できなくなり、売上が急落してしまうというケースも散見されます。事前の準備段階でこれらのリスクを評価し、従業員の処遇や事業の承継方法について具体的な合意を形成できていないことが、統合後の混乱を招く主な理由です。

M&Aトラブルを未然に防ぐための対策

徹底したデューデリジェンスの実施

トラブルを回避するための最も有効な方法は、事前のデューデリジェンスを徹底することです。単に提供された資料を確認するだけでなく、財務面、法務面、そしてビジネスの実態面から、各分野の専門家による多角的な調査を実施する必要があります。

特に労務関連の問題や知的財産権の帰属、過去の取引の適法性など、表面的な資料だけでは判明しにくい部分に焦点を当てることが重要です。不透明な点があれば納得がいくまで説明を求め、必要に応じて価格の調整や契約条件への反映を行う姿勢が求められます。

明確な契約書の作成と専門家の活用

M&Aの交渉過程で合意した内容は、漏れなく契約書という形にする必要があります。雛形をそのまま使用するのではなく、個別の案件に応じた特有のリスクを反映させ、条項の一つひとつを吟味することが不可欠です。

特に表明保証の範囲や、万が一の問題発生時における補償の限度額、期間の設定などは、後の紛争において決定的な役割を果たします。これらには高度な専門知識が必要となるため、M&Aの実務に精通した弁護士に依頼し、自社の利益を守るための法的支援を受けるべきです。

PMIの計画と準備

統合後の混乱を防ぐためには、成約前からPMIの計画を練っておくことが重要です。買収後にどのような組織体制を構築し、従業員のモチベーションをどう維持するのか、具体的なアクションプランを作成しておかなければなりません。

また、売り手と買い手の間で、事業の核となる技術や人脈をどのように引き継ぐかについて、詳細な条件を詰め、時間をかけて信頼関係を構築していくことが必要です。従業員への説明を行うタイミングや内容についても、慎重に検討を重ねることで、不要な摩擦を避けることが可能となります。

M&Aトラブルが発生した場合の対応

迅速な事実関係の調査と証拠の確保

万が一トラブルが発生した際には、まず迅速に事実関係を整理し、証拠を確保することが最優先です。どの条項に違反している可能性があるのか、いつどのような情報が提示されたのかといった経緯を、契約書や交渉時の議事録、メール等の資料をもとに詳細に確認します。

時間の経過とともに当時の記憶が薄れたり、関係者が離職したりすることもあるため、異変を感じた段階ですぐに動き出すことが重要です。証拠が不十分な状態では、その後の請求や交渉を有利に進めることが難しくなるため、初期の初動対応が勝敗を分けると言っても過言ではありません。

専門弁護士を通じた法的手段の検討

個人や社内の担当者だけで対応しようとすると、かえって問題が複雑化したり、法的に不利な譲歩を強いられたりする恐れがあります。そのため、早急に専門の弁護士に相談し、法的な見地からどのような解決方法が考えられるかを検討すべきです。

損害賠償請求だけでなく、対価の一部支払い停止や、場合によっては契約の解除を求めることが適切なのかを判断します。弁護士は代理人として相手方との交渉の窓口となり、法的な根拠に基づいた主張を展開することで、経営者の負担を軽減しつつ、最善の結果を目指します。

紛争の激化を防ぐための冷静な協議

訴訟による解決は最終手段であり、それには多大なコストと時間がかかります。そのため、まずは冷静な協議を通じて、現実的な落とし所を探ることが多くのケースで求められます。

紛争が激化して事業が壊滅的な打撃を受けることを避けるためにも、客観的な状況分析を行い、戦略的に交渉を進めることが大切です。

M&Aを検討中の経営者様はぜひ一度ご相談ください

M&Aには避けて通れない法的なハードルがいくつも存在します。事前の小さな注意を怠ったばかりに、築き上げてきた事業や資産が損なわれるような事態は、何としても避けなければなりません。

林法律事務所では、経営者様の想いに寄り添い、リスクを最小限に抑えるための包括的な支援を行っております。まずは一度、ご相談ください。

Last Updated on 1月 29, 2026 by hayashi-corporatelaw