試用期間中の解雇は認められる?理由と手続き、不当解雇とならないための注意点について解説

  • 労働問題

試用期間は、企業が採用した従業員の適性や能力を評価し、本採用するかどうかを判断するために設けられた期間です。この期間中、企業と従業員の間で締結される労働契約は、「解約権留保付労働契約」と解釈されており、企業は一定の条件下で労働契約を解除する権利を留保しています。しかし、試用期間中であっても、無条件に解雇が認められるわけではありません。不当解雇とみなされれば、従業員から訴訟を起こされ、多額な請求を受ける可能性もあるため、慎重な対応が求められます。

試用期間中の解雇と本採用拒否

試用期間中の解雇と、試用期間満了後の本採用拒否とでは、本採用拒否の方が一般的に認められやすいとされています。試用期間は、従業員の仕事に対する能力や適性を判断する期間であるため、期間終了後に解雇事由に該当すると判断された場合に解雇するのが妥当と考えられるからです。試用期間の終了を待たずに解雇すると、不当解雇とみなされ無効になる可能性があるため注意が必要です。ただし、試用期間中であっても、労働者が社内の秩序を著しく乱す行為を行った場合には、普通解雇や懲戒解雇といった形で解雇することも可能です。しかし、そのような相当な理由がないにも関わらず試用期間中に解雇した場合、解雇権の濫用とみなされ、解雇が無効になる恐れがあることも理解しておきましょう。

試用期間の解雇が認められるケース

試用期間中の従業員を解雇する場合、正当な解雇事由が必要です。以下に、一般的に試用期間の解雇が認められやすいケースを解説します。

①病気やケガで休職復帰後も就業が難しい場合

不慮の事故や病気、ケガにより一時的に働けなくなった従業員が休職後、簡単な業務から徐々に復職することも難しいと判断される場合に、やむを得ず試用期間の解雇が選択されることがあります。ただし、労働基準法第19条により、業務上の負傷や疾病による休業期間とその後の30日間は原則として解雇が禁止されています。療養開始後3年を経過しても治癒しない場合には、打切補償を支払うことで解雇制限が解除されます。また、労災の傷病補償年金が支給されている場合も解雇可能です。重要なのは、企業側には一方的な解雇の権利はなく、まずは負荷の少ない業務から与えて復職できるようサポートする義務があるということです。主治医から復職可能と診断されているにも関わらず、配慮なく解雇すれば不当解雇となる可能性が高いです。ただし、「面接時に健康状態を偽っていた」ような場合は、試用期間中の解雇・本採用拒否が認められる可能性があります。

②勤怠不良である場合

正当な理由のない遅刻、早退、欠席を繰り返し、企業が指導を行っても改善が見られない場合は、正当な解雇事由として認められます。ただし、明確な回数が定められているわけではなく、指導をしても直らない場合に限られます。厚生労働省は、2週間以上の無断欠勤に関しては解雇予告が不要と認めていますが、企業が指導や教育を全く行わずに解雇した場合、不当解雇とみなされる可能性があるので注意が必要です。

③期待していた能力がなく一定の成績が出せない場合

採用時に期待されていた能力が著しく不足しており、教育期間を設けて指導を実施したり、配置転換を試みたりしても、依然として改善が見られない場合は、正当な解雇事由とみなされることがあります。特に、数値によって成績を把握できる職種(例:営業職)では判断がしやすいかもしれません。試用期間中に達成すべき明確な基準(例:アポイントメント数、資格取得)を設定し、雇用契約書に明記しておくことも有効です。ただし、新卒採用者に対して、社会人経験がないことを理由に能力不足とする解雇は不当とみなされる可能性が高いです。また、中途採用者に対しても、仕事の結果が芳しくないことのみを理由とした解雇は認められません。重要なのは、企業側が十分な指導を行った上で判断するということです。幹部社員として採用した場合、求めるスキルを明確に示していることが多く、成果を出すことを前提としているため、採用時に期待していた能力が欠如していた場合は、客観的に能力不足であることが判断されやすい傾向にあります。

④経歴の詐称

応募書類に学歴、職歴、資格などを偽って記載していた場合も、試用期間中の解雇理由となり得ます。特に、業務遂行に不可欠な資格を保有していないにも関わらず申告していた場合は、重大な経歴詐称として扱われる可能性があります。

⑤勤務態度や協調性の欠如

就業中に真面目に業務に取り組まない、指示に従わない、素行が悪いといった問題があり、注意や指導を行っても改善が見られない場合や、周囲と協力できず業務に支障をきたすような場合も、試用期間中の解雇が認められることがあります。

試用期間の解雇で認められにくいケース

企業側の努力もなく、「能力がないから」「成果が出ないから」といった理由だけで試用期間中に解雇することは、認められない可能性が高いです。特に、以下のようなケースは不当解雇と判断されるリスクが高まります。

①新卒採用者に対しての「能力不足」

社会人経験のない新卒採用者に対し、経験者と比較して能力が劣ることを理由に解雇することは、不当とみなされる可能性があります。

②結果だけを理由にしている

新卒・中途採用者に関わらず、仕事の結果が思わしくないことのみを理由に解雇することは認められません。結果は労働者の能力だけでなく、市場状況など様々な要因に左右されるためです。

③指導を行わないまま解雇する

能力不足や勤務態度の問題が見られる場合でも、十分な指導や教育を行わないまま解雇を決定することは、正当性を欠くとされます。試用期間は、ミスマッチに早く気づき対処するための期間であり、指導を通じて改善の機会を与えることが重要です。

試用期間中の解雇手続き

正当な理由がある場合でも、試用期間中の解雇には所定の手続きが必要です。

①解雇理由を明確にする

なぜ解雇するのか、その理由を具体的に明確にする必要があります。労働基準法第22条により、解雇された従業員から請求があった場合、会社はその理由を含む証明書を発行しなければなりません。客観的に合理的な理由がなければ、不当解雇として訴えられるリスクがあります।

②解雇予告を実施する

原則として、解雇日の30日以上前に従業員に解雇を予告する必要があります。30日以上前に予告できない場合は、その日数に応じた**解雇予告手当**を支払わなければなりません。ただし、**試用期間開始から14日以内**に解雇する場合は、解雇予告は不要とされています。労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合や、天災事変などやむを得ない事由により事業継続が不可能になった場合も、解雇予告は不要となることがあります(労働基準法第20条)。

③退職手続きを行う

解雇日には、通常の従業員と同様に、雇用保険や社会保険の資格喪失手続き、貸与物の返却、預かっていた書類の返却など、必要な退職手続きを行います。

まとめ

試用期間中の解雇は、本採用拒否よりも慎重な判断と手続きが求められます。正当な解雇事由が存在し、適切な手続きを踏まなければ、不当解雇と判断される可能性が高まります。企業は、従業員の能力や適性を慎重に見極めるとともに、問題点が見られた場合には十分な指導や改善の機会を与え、客観的かつ合理的な理由に基づいて解雇を判断する必要があります。解雇理由を明確にし、必要な解雇予告期間を守るなど、法令を遵守した手続きを行うことが、トラブルを未然に防ぐ上で最も重要です。不安な場合は、専門家(弁護士や社会保険労務士など)に相談することも検討しましょう。

Last Updated on 5月 1, 2025 by hayashi-corporatelaw