「法人破産で「税金」は免除される?滞納税金や社会保険料の処理について弁護士が解説」

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税金・社会保険料の滞納で法人破産を検討する経営者様へ

会社の経営悪化により倒産・破産を検討する際、税金や社会保険料(公租公課)の滞納が大きな懸念となります。

結論として、法人が破産・消滅すれば、滞納税金も原則として支払義務がなくなります。 しかし、代表者個人が納税保証書を提出しているなど、例外的に個人に納税義務が残るケースがあります。

税金滞納を放置し、税務署による差し押さえを受けると、破産手続き自体が困難になるため、早期に弁護士に相談し、適切な対応を検討することが不可欠です。

本コラムでは、会社の倒産・破産の際の税金や社会保険料の扱いについて弁護士が解説します。

法人破産で「税金・社会保険料」は免除されるのか?公租公課の特殊性

原則、法人が消滅すれば債務は消滅しますが、個人破産とは仕組みが異なります。

法人破産の免責の仕組みと「非免責債権」の定義

会社が破産に追い込まれた際、法人税や社会保険料などの租税公課が債務に含まれることが多いです。

結論として、法人が清算手続の結了によって法人格を失い消滅すれば、その租税債務も原則として消滅します。これは、債務者である法人が存在しなくなるためです。

この仕組みは個人破産と大きく異なります。個人は破産後も生存するため、「免責許可」が必要ですが、租税債権は破産法第253条第1項第1号に定められた「非免責債権」であり、免責されません。したがって、個人破産では税金や社会保険料の滞納分は支払い義務が残ります。

税金(租税債権)と社会保険料の「別除権的」な優先順位

法人が破産手続きに入ると、滞納税金や社会保険料などの租税債権は、一般債権よりも優遇されます。

具体的には、納期限が未到来のものや1年以内の租税債権は「財団債権」として扱われます。財団債権は破産債権より優先され、破産財団から随時弁済を受けることができ、最も回収可能性が高い債権です。

それ以外の税金も、延滞税等を除き「優先的破産債権」として、一般の破産債権より優先的に配当を受けることができます。

滞納税金がある場合の法人破産手続きへの影響

税金には、裁判所の手続きを経ずに差し押さえができる自力執行権が認められています。滞納が続くと、税務署から督促後に予告なく銀行預金などが滞納処分による差押えを受ける可能性があります。

一度差押えを受けると、会社の財産が自由に使えなくなり、破産申立てに必要な費用(弁護士費用、予納金)を確保できなくなる危険性が高いです。これにより、破産手続き自体が進められなくなる恐れがあります。また、破産申立て前の差押えは、手続開始後も原則として取り消されません。

したがって、税金滞納があり支払いの見込みがない場合は、滞納処分を回避するため、早期に弁護士に相談し、法人破産を含めた対応を検討することが必須です。

滞納税金・社会保険料が「代表者個人」に及ぼす影響

法人の債務は原則消滅しますが、例外的なケースでは代表者個人に支払義務が残ります。

法人税と代表者個人の責任の原則

株式会社や合同会社などの通常の法人は有限責任の原則に基づいています。したがって、法人が破産手続の終了により法人格を失い消滅すれば、滞納税金や社会保険料といった法人の債務も消滅します。原則として、法人の滞納していた税金を代表者や経営者が個人の財産から支払う義務はありません。この原則は、税金を支払うべき主体である法人自体が存在しなくなることによります。

事業主(代表者)の「連帯納付義務」が生じるケース

法人の税金支払い義務は原則消滅しますが、例外的に代表者や第三者が会社の滞納税金等を支払う義務を負う場合があります。主なケースは以下の通りです。

・納税保証書を提出している場合

 代表者などが税務署に納税保証書を提出していると、法人が破産・消滅した後も保証人としての個人の義務は消滅しません。この支払義務は、個人破産(自己破産)をしても**免責されない(非免責債権)**ため、特に注意が必要です。

・無限責任社員である場合

 合名会社や合資会社の無限責任社員は、会社が消滅しても、会社の滞納税金について個人財産をもって納税義務を負い続けます(国税徴収法第33条)。

・第二次納税義務を負う場合

 同族会社の関係者、清算人、財産を不当に譲り受けた者などが、法律に基づき第二次納税義務を負うことがあります。これには、税金支払前に清算財産を分配した場合(国税徴収法第34条)などが含まれます。

代表者個人が法人破産と自己破産を同時に申し立てる必要性

多くの中小企業経営者は、法人の借入金の連帯保証人となっているのが一般的です。法人が破産で消滅しても、連帯保証債務は代表者個人に残り、金融機関から返済を求められます。

また、納税保証書による納税義務も個人破産では免責されません。

連帯保証債務など他の債務を清算し、経済的更生を図るため、法人破産と同時に代表者個人も自己破産を申し立てる必要性が生じることが多いです。弁護士は、両者の債務整理を含めた最良の解決策を提案します。

税金滞納がある場合の法人破産手続きの進め方と注意点

滞納処分を回避するための早期の対応と、破産管財人との連携が鍵となります。

破産申立て前の税務署・年金事務所への対応

法人破産を検討する際、税金や社会保険料の滞納で最も避けるべきは滞納処分(財産の差押え)です。税務署は裁判所の手続きを経ずに差し押さえを行う自力執行権を持つため、滞納が続くと突然、預金等が差し押さえられる危険があります。

差押えが実行されると、会社の財産が使えなくなり、破産申立てに必要な費用(弁護士費用や予納金)を確保できなくなる可能性が高くなります。この回避のため、滞納がある場合は税務署に「納税の猶予」や「換価の猶予」を相談できますが、支払いの見込みがないなら、処分を受ける前に早期に弁護士に相談し、破産申立ての準備を進めることが重要です。

また、無申告の会社でも、裁判所に「債務超過」を認定してもらうために、確定申告書の作成は不可欠と考えられます。

滞納処分(差押え)を受けている場合の解除手続き

破産申立ての前に既に滞納処分による差押えが実行されていた場合、破産手続開始後もその効力は原則として取り消されません。

差押え回避が最優先ですが、既に差押えを受けていても、破産手続きを開始すれば新たな差押えはなくなります。財産は破産管財人が管理・処分し、法律で定められた優先順位に従って債権者へ分配されます。

破産管財人との税金・社会保険料処理に関する連携

会社が破産手続きに入ると、裁判所選任の破産管財人が財産の管理・処分権限を担います。法人格消滅までの納税義務者は破産法人ですが、実際の手続きは管財人が行います。

管財人は、税務署等への届出、未納税金の確認、および法人格が消滅するまでの所定の税務申告(解散・清算事業年度など)を行います。これらの申告により、消費税の還付や欠損金の繰戻し還付を受けられる可能性があり、これらは破産財団の重要な財源となります。

経営者様は、管財人が処理を円滑に進められるよう、直近3期分の決算書、納税証明書、未納税金の明細など、必要な書類を収集し、情報提供することが求められます。

法人破産と税金滞納でお悩みの方は、弁護士にご相談ください

法人破産により滞納税金は原則消滅しますが、納税保証などの例外的な責任が代表者個人に残る可能性があります。また、税金滞納を放置すると差し押さえにより破産手続き自体が困難になります。破産は準備が非常に重要です。お早めに弁護士に相談し、最良の解決策を見つけ、経済的な再スタートを図りましょう。

Last Updated on 12月 15, 2025 by hayashi-corporatelaw