取引先に迷惑をかけたくないとお考えの経営者の方へ
法人破産を検討する際、多くの経営者は「取引先に迷惑をかけたくない」という責任感に悩みます。しかし、支払いを先延ばしにしたり音信不通になったりするよりも、法的手続きで清算する方が、結果的に取引先のためになります。法人破産は苦渋の決断ですが、経営者自身の再起にもつながる、最後の責任ある選択です。
本記事では、会社が破産した場合の、破産した会社の取引先への影響と、影響を少なくするためのポイントについて解説します。
知っておくべき取引先への影響
会社が破産すると、取引先は、売掛金や債権の回収ができないという「貸倒れ」状態になってしまいます。取引先が中小企業の場合には、売掛金・債権回収ができなかったことが原因となっての連鎖的な倒産を引き起こしてしまう可能性もあります。
破産手続きでは、裁判所が選任した破産管財人という弁護士が財産を管理や処分を行い ますが、その分配は税金や従業員の賃金が優先されます。そのため、一般の取引先への配当はゼロか、あってもごく僅かとなり、結果的に多額の損失を抱えることになるのが実情です。
破産前にやってはいけない3つのこと
取引先への影響を最小限に抑えたいという気持ちから、良かれと思って行った行動が、かえって事態を悪化させたり、法的な問題を引き起こしたりする可能性があります。ここでは、破産前に絶対に避けるべき3つの行為を解説します。
特定の取引先だけへの支払い
「世話になった取引先に迷惑をかけたくない」という思いから特定の相手にだけ返済する行為は、「偏頗弁済(へんぱべんさい)」として破産法で固く禁じられています。これは全債権者を平等に扱うという破産手続きの原則に反するため、破産管財人はその支払いを無効にし、取引先から資金を取り戻します。良かれとした配慮が、かえって取引先をトラブルに巻き込むのです。さらに、偏頗弁済は経営者自身が刑事罰を受けたり、個人の免責が認められなくなったりする重大な不正行為です。
会社の財産を隠す・移す
会社の財産を隠したり、親族へ無償で譲渡したりする行為は、全債権者への公平な配当を妨げるため、破産手続きで厳しく禁じられています。破産準備を隠して新たに借入れをすれば、詐欺罪に問われる可能性もあります。意図的な財産隠しや不当な移転は、破産犯罪となるだけでなく、経営者個人の免責が認められない重大な理由になります。
誰にも相談せず、突然姿を消す
「夜逃げ」のように突然姿を消すのは、取引先に混乱と不信を招き、責任を放棄する最悪の選択です。一方で、破産の準備は、情報が漏れると債権者が殺到するなどの混乱で手続き自体が困難になるため、秘密裏に進める必要があります。このため、一人で抱え込まずに早く弁護士に相談し、情報管理と適切な手続きについて指示を仰ぐことが極めて重要です。
取引先への影響を最小限にするポイント
破産手続きにおいて、取引先への影響を最小限に抑えるためには、弁護士と連携しながら「タイミング」「伝え方」「ルール」の3つのポイントを意識して対応することが重要です。
相談の「タイミング」
弁護士への相談は、できるだけ早く行うことが重要です。事前に情報が漏れると、債権者が会社に殺到して混乱が生じ、円滑な破産申立てが妨げられてしまうからです。弁護士に依頼すれば、全債権者に「受任通知」を送付し、連絡窓口を一本化できます。これにより、経営者が直接対応するリスクをなくし、混乱を最小限に抑えて手続きを進めることが可能になります。
情報の「伝え方」
取引先への直接連絡は、情報漏洩のリスクがあるため原則として避けるべきです。謝罪は弁護士からの書面で行うのが一般的であり、経営者が単独で臨機応変に対応するのは困難なため、必ず事前に弁護士に相談してください。
誠意を示す正式な場は、裁判所で開かれる「債権者集会」です。ここで破産に至った経緯などを誠実に説明することが、経営者の最後の重要な責任となります。債権者集会では、代理人弁護士と共に謝罪の意を示し、寄せられる全ての質問に誠心誠意応えることを心がけましょう。また顧客には、売掛金の支払先が破産管財人になることを連絡します。可能であれば、代わりの取引先を紹介することも有効な配慮となります。
守るべき「ルール」
取引先への影響を最小限にするためには、破産手続きにおける以下の「ルール」を厳守することが不可欠です。
- 偏頗弁済の厳禁: 特定の債権者だけを優遇する支払いは、債権者平等の原則に反するため許されません。弁護士依頼後は一切の支払いを止め、対応を任せましょう。
- 新たな借入れの禁止: 破産準備中の新たな借入れは禁止です。事実を隠して借入れをすると詐欺罪に問われる恐れがあります。破産管財人への協力: 破産管財人からの指示には必ず従い、求められた情報や資料は速やかに提供する義務があります。
- 取引先への制度紹介: 連鎖倒産の危機にある取引先のために、中小企業倒産防止共済制度やセーフティネット貸付などの公的支援制度を情報提供することも大切です。
取引先のために、まずは弁護士へご相談ください
法人破産は、会社内外の多くの関係者に多大な影響を与える重大な決断です。しかし、経営継続の余力がない以上は、その決断をせざるを得ない場面が必ず訪れます。このような状況で、取引先に与える影響を最小限に抑え、適切かつ丁寧な対応を取るためには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
林法律事務所では、法人破産に関するご相談をお受けしております。法人破産についてお悩みをお持ちの経営者様は、ぜひ林法律事務所へご相談ください。
Last Updated on 9月 24, 2025 by hayashi-corporatelaw