中小企業における取締役の責任
取締役は、会社法によって定められた役職であり、主な役割としては、会社の業務を行っていくために必要な意思決定を行います。取締役会が設置されている会社や、取締役が複数人いる会社の場合では、取締役の過半数の意見をもって、会社全体の意思決定を行います。
取締役の責任
取締役が会社に対して負っている責任は多くありますが、代表的なものは以下の3つが挙げられます。
善管注意義務と忠実義務
取締役は善管注意義務と忠実義務を負っています。これは会社法330条および355条に規定されており、取締役は誠実に職務を遂行し、会社のために最善の判断を行う義務があります。
会社に対する損害賠償責任
会社法423条1項により、取締役が任務を怠り(任務懈怠)、会社に損害を与えた場合、その損害を賠償する責任があります。この責任は、取締役の行為が故意または過失により善管注意義務に違反した場合に発生します。
第三者に対する責任
会社法429条に基づき、取締役はその職務執行において悪意または重大な過失があり、第三者に損害を与えた場合、その損害を賠償する責任を負います
取締役は従業員のように会社と雇用関係にあるわけではなく、会社とは委任関係にあります。会社から委任されて業務を執行しているという観点から、取締役の業務が原因となって会社に損害を与えた場合には、会社に対して損害賠償責任を負っています。しかし、取締役の業務の特性上、業務の判断が正しいかどうかの判断が困難な状況で業務を進めざるを得ない場合が多いため、取締役の業務執行は以下の2つの観点から評価されます。
①経営判断の前提となる事実認識の過程(情報収集とその分析・検討)における不注意な誤りに起因する不合理さの有無
②事実認識に基づく意思決定の推論過程・内容の著しい不合理さの存否
上記2つの観点において問題がないと判断された場合、取締役の業務執行によって会社に損害が生じてしまっても、取締役には責任がないとされます。
この損害基準に関する判断は総合判断であり非常に難しいため、弁護士などの専門家への事前の相談がおすすめです。
取締役に損害賠償が発生する場合
上記で述べたように、取締役は会社に対して損害賠償責任を負っています。取締役に損害賠償責任が発生するのは以下のような場合です。
任務懈怠による会社への損害が発生した場合
取締役は、会社法や定款で定められた任務を適切に遂行する義務があります。この任務を怠り、会社に損害を与えた場合、会社法423条1項に基づき損害賠償責任を負います。具体的に想定される場合としては、適切な市場調査を行わずに新規事業に進出し、多額の損失を出した場合などが考えられます。
善管注意義務・忠実義務違反があった場合
取締役は、会社に対して、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)と、会社の利益のために忠実に職務を遂行する義務(忠実義務)を負っています。これらの義務に違反して会社に損害を与えた場合、賠償責任が生じます。会社の資金を私的に流用した場合や、会社の機密情報を漏洩した場合などがこれに該当します。
利益相反取引を行った場合
取締役は、自己または第三者の利益のために、会社と取引を行うこと(利益相反取引)が制限されています。株主総会または取締役会の承認を得ずに利益相反行為を行い、会社に損害を与えた場合、その損害を賠償する必要があります。取締役が所有する別の会社に、不当に有利な条件で取引を行うなどの行為を行った場合、損害賠償の対象となります。
監視義務違反があった場合
取締役会は、各取締役の業務執行を監視する義務があります。ある取締役の違法または不適切な業務執行を阻止できなかった他の取締役も、監視義務違反として損害賠償責任を負う可能性があります。ある取締役が不正行為を行っていることを知りながら、それを放置する、明らかに会社に不利な契約を締結する決議に賛成する等が挙げられます。
このように、取締役に損害賠償が認められる場合もあります。
会社が取締役に損害賠償請求を行う流れ
取締役に対する損害賠償訴訟の流れは以下の通りです。
代表者の決定
監査役設置会社では、監査役が会社を代表して訴訟を提起します。その他の会社では、原則として代表取締役が提起しますが、株主総会や取締役会で別の代表者を定めることも可能です
管轄裁判所の選定
訴訟は株式会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に提起する必要があります
被告となる取締役、請求の趣旨、請求を特定するのに必要な事実を記載した訴状を作成し、裁判所に提出します。
公告または株主への通知
会社は訴えを提起したことを遅滞なく公告するか、株主に通知しなければなりません
訴訟
裁判所での審理が行われ、必要に応じて証拠の提出や証人尋問が行われます。
判決または和解
裁判所が判決を下すか、当事者間で和解が成立します。
判決確定後の対応
判決が確定した後、損害賠償金の支払いなど、判決内容に従った対応が行われます
なお、訴訟提起前に、取締役の資産を仮に差し押さえる「仮差押」手続きを検討することも重要です
弁護士に相談するメリット
取締役の損害賠償請求について弁護士に相談するメリットは、以下の3点があげられます。
専門的な知識と経験に基づいた的確なアドバイスがもらえる
弁護士は、会社法や関連法規、判例などに精通しており、取締役の責任に関する深い知識と豊富な経験を有しています。 そのため、責任の有無・範囲の判断や請求額の算定、証拠収集などをスムーズに行うことができます。
交渉・訴訟を有利に進めることができる
弁護士は、依頼者の代理人として、相手方との交渉や訴訟を行うことができます。 法律の専門家として、冷静かつ客観的な立場で、依頼者の利益を最大限に守ります。
手続きの負担を減らすことができる
損害賠償請求は、時間と労力を要する複雑な手続きです。 弁護士に依頼することで、依頼者は煩雑な手続きや、交渉等の負担を軽減することができます。また、弁護士という第三者が関与することにより、客観的で冷静な判断のもとで損害賠償請求を進めることができます。
取締役トラブルは弁護士までご相談ください。
取締役トラブルは判断に悩む部分も多いトラブルです。そのため、損害が発生した早い段階で弁護士などの専門家に相談することが非常に重要となります。また、弁護士に社外監査役や社外取締役に就任してもらうことで、トラブルを未然に防ぐ方法もあります。
林法律事務所では、取締役に関するご相談をお受けしております。金融機関での勤務経験と、弁護士としての知見をもって、会社の経営のために最善のご提案をさせていただきます。
まずはお気軽にご相談ください。
Last Updated on 1月 21, 2025 by hayashi-corporatelaw