業務上横領が起きた際に、会社が取るべき対応とは?発覚時の対応から、その後の流れまでを弁護士が解説

  • 労働問題

社内で業務上横領が疑われる事態が発生した際、経営者や法務担当者が受ける衝撃は計り知れません。しかし、感情的に対応を進めてしまうと、後に不当解雇として訴えられるなど、会社側が不利な状況に追い込まれるリスクがあります。本記事では、業務上横領の基本的な定義から、発覚時に会社が取るべき初動対応、懲戒処分や刑事告訴の手続き、再発防止策までを弁護士が詳しく解説します。

業務上横領とは?

業務上横領とは何か

業務上横領は、刑法第253条に規定されている犯罪行為です。業務として他人の物を占有(管理・保管)している者が、その物を不法に自分のものにする行為を指します。ここでの業務とは、社会生活上の地位に基づき、継続して行われる事務を意味します。信頼関係に基づいて財産の管理を委託されている従業員が、その信頼を裏切って私的に流用する行為であり、通常の横領罪よりも重い刑罰が科されます。

業務上横領罪の成立条件とは

業務上横領罪が成立するためには、主に以下の4つの要件を満たす必要があります。

①加害者が業務として他人の財産を占有していること(経理担当や店舗責任者など)
②占有している財産が、会社が所有する金銭や物品などの他人の物であること
③その財産を自分のものとして処分する横領行為を行うこと
④加害者に不法領得の意思(他人の物を自分が所有者であるかのように処分する意思)があること

一時的に借りるつもりだったと主張しても、会社の金を私的に補填した事実があれば、不法領得の意思が認められる可能性が極めて高いといえます。

業務上横領の具体例とは

企業活動において発生しやすい具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。

・経理担当者が、会社の預金口座から自身の個人口座へ秘密裏に送金を行い、私的に消費する
・店舗の売上金やレジ内の現金を、帳簿を改ざんして抜き取る
・集金業務を行う営業社員が、顧客から回収した現金を会社に入金せず着服する
・私的な飲食代や買い物の領収書を偽って申請し、経費として払い戻しを受ける
・会社の備品や商品を無断で持ち出し、売却して利益を得る

業務上横領が発覚した場合に会社に求められる初動対応とは

関係者への事実確認においての注意点

不祥事の疑いが生じた際、最も重要なのは初動対応です。確実な証拠がない段階で、対象の従業員を厳しく追及したり、犯人扱いしたりすることは絶対に避けてください。事実誤認であった場合、名誉毀損やパワーハラスメントとして会社が訴えられるリスクが生じます。
ヒアリングを行う際は、客観的な事実のみを確認する必要があります。また、面談は必ず複数人で行い、言った言わないのトラブルを防ぐために、詳細な議事録を作成するか、同意を得た上で録音を行うことが望ましいです。周辺の事実関係を固めてから本人との面談に臨むのが鉄則です。

証拠収集の方法

客観的な証拠の収集は、その後の懲戒処分や民事上の損害賠償請求、刑事告訴を有利に進めるための基盤となります。本人が隠滅を図る前に、迅速に行う必要があります。
具体的な方法としては、銀行口座の取引明細や振込履歴の確認、領収書や伝票などの会計書類の照合、パソコンのメールやチャット履歴の解析、社内の防犯カメラの映像確認などが挙げられます。これらの証拠を時系列に整理し、いつ、誰が、どのような方法で、いくらの被害を生じさせたのかを明確にした調査報告書を作成しておくことが、その後の法的手続きをスムーズにします。

業務上横領を理由に懲戒処分をする際の注意点とは

業務上横領が事実であると確認できた場合、会社は当該従業員に対して懲戒処分を検討することになります。多くの場合、最も重い処分である懲戒解雇が検討されますが、手続きを誤ると労働契約法上の権利濫用とみなされ、処分が無効になる恐れがあります。
処分を行う際は、まず就業規則に懲戒の事由と処分の種類が明記されている必要があります。記載のない理由で処分を行うことはできません。
次に、適切な手続きの遵守です。対象の従業員に対して、自身の言い分を主張する弁明の機会を必ず与えなければなりません。本人の言い分を聞かずに一方的に解雇を言い渡すと、手続きの不備を理由に処分が不当とされる可能性が高まります。
さらに、処分の重さが妥当であるかという点も重要です。被害額や本人の反省の度合い、過去の事例などを総合的に考慮して決定する必要があります。

刑事告訴をする場合の方法とは

刑事告訴のメリット・デメリット

刑事告訴を行う最大のメリットは、国家権力による捜査が行われるため、会社単独では把握しきれなかった被害の全容や余罪が明らかになる点です。また、刑事罰を受ける可能性が生じることで、加害者やその親族が事の重大さを認識し、被害弁償に応じる可能性が高まるという側面もあります。
一方で、デメリットもあります。刑事告訴の手続きには多大な時間と労力がかかります。警察は民事不介入の原則があるため、証拠が不十分な状態では告訴状を受理してくれません。会社側で緻密な証拠を揃えて提示する必要があり、その準備負担は小さくありません。また、事件が公になることで、会社の社会的信用が低下するリスクも否定できません。

刑事告訴を進めるうえでの注意点

刑事告訴を実効性のあるものにするためには、まず警察に事件の重大性と証拠の確実性を理解してもらう必要があります。告訴状には、犯罪事実を法律の要件に沿って正確に記載し、それを裏付ける客観的な証拠を添付しなければなりません。専門的な法律知識が必要となるため、弁護士に告訴状の作成や警察との交渉を依頼することが一般的です。
また、告訴のタイミングも重要です。あまりに時間が経過してしまうと、証拠が散逸したり、警察の捜査が難しくなったりします。初動の調査段階から刑事告訴を視野に入れ、計画的に証拠を積み上げていくことが求められます。

業務上横領の再発防止策とは

不祥事が発生した後は、二度と同様の事態が起きないよう、管理体制を根本から見直すことが不可欠です。業務上横領が発生する背景には、特定の従業員に権限が集中しているという構造的な問題が存在することが少なくありません。
具体的な再発防止策としては、現金の管理、帳簿の入力、承認の権限をそれぞれ別の従業員に担当させる職務権限の分散や、定期的な人事異動によるローテーションが有効です。これにより、不正が隠蔽され続けるリスクを大幅に低減できます。さらに、内部監査の強化や、全従業員に対する定期的なコンプライアンス教育の徹底も重要です。

業務上横領の対応を弁護士に相談すべき理由

業務上横領への対応を弁護士に相談すべき最大の理由は、不当解雇や名誉毀損といった逆訴訟リスクを回避し、法的に落ち度のない手続きを進められる点にあります。 社内調査でのヒアリングや証拠収集は非常に繊細であり、一歩間違えると会社側が労働法違反などで訴えられるリスクを伴います。また、警察に受理されやすい告訴状の作成や、実効性のある損害賠償請求の交渉には、高度な専門知識が不可欠です。 初期段階から弁護士のサポートを受けることで、経営者や担当者の精神的負担を軽減しつつ、会社の財産と社会的信用を守るための最適な解決を迅速に導くことができます。

業務上横領でお困りの方は、林法律事務所へご相談を

林法律事務所では、これまで多くの企業法務や労務トラブルを解決してきた実績に基づき、迅速かつ的確なサポートを提供いたします。事態を穏便かつ確実に収束させ、会社の財産と信用を守るために、まずは一度ご相談ください。貴社の状況に応じた最適な解決策をご提案いたします。

Last Updated on 5月 28, 2026 by hayashi-corporatelaw