任期途中の取締役の報酬を減額したいという相談をいただくことは多くあります。減額するような理由としては、中小企業の経営者争いや、役員の勤務態度の不良、企業の経営難等が挙げられます。
取締役の報酬を任期途中で変更することは、原則としては認められていませんが、理由次第では認められる場合もあります。
本記事では、取締役の報酬変更に関する疑問や、変更する場合の手順等について解説します。
役員報酬の減額が可能なケース
取締役の報酬は、従業員の給与とは異なり、利益調整を防ぐための厳格な法規制の下に置かれています。そのため、減額が認められるのは、単なる経営者の意向ではなく、客観的な必要性が認められる特定のケースに限られます。
経営悪化事由による税務上の例外措置
法人税法上、役員報酬は「定期同額給与」が原則であり、期中の変更は損金算入が否認されるリスクを伴います。しかし、経営状況が著しく悪化したと認められる場合には、例外的に期中減額が認められます。具体的には、売上の急減や主要な取引先の倒産、あるいは金融機関からリスケジュールの条件として報酬カットを求められた場合など、第三者から見ても報酬維持が困難な状況がこれに該当します。一時的な資金繰りの都合ではなく、事業継続のために不可欠な措置であることを証明できる場合、税務上のリスクを抑えた減額が可能となります。
役員本人の同意と法的な正当性
会社法実務においては、会社と役員の委任契約に基づき、減額に対する対象者本人の同意が不可欠な要素となります。一方的な通知のみによる減額は、後に未払報酬の請求を受ける法的リスクを孕んでいますが、経営危機の回避という正当な目的があり、本人が合意書を差し入れている場合は適法に減額を実施できます。株主総会や取締役会での適正な決議を経て、経営陣が連帯して責任を負う姿勢を明確にすることが、法的な紛争を防ぎ、清算や再生に向けた円滑なプロセスを担保する鍵となります。
役員報酬減額までの手順
役員報酬の減額を適正に進めるためには、会社法上の決議プロセスと税務上の要件、そして個別の合意という三つの側面を統合した慎重な手続きが求められます。単に振込額を変更するだけでは、後の税務調査で経費として認められなかったり、役員から未払報酬として訴えられたりするリスクを排除できません。法的な瑕疵のない手順を踏むことこそが、経営危機の局面における二次的な紛争を回避する唯一の手段となります。
株主総会の開催
まず、株主総会の開催し、会社としての意思決定を法的に裏付けます。役員報酬は「定款」または「株主総会の決議」で定める必要があるため、たとえ減額であっても、まずは総会において報酬総額の変更や改定の枠組みを決定しなければなりません。取締役会設置会社であれば、総会で承認された範囲内において、具体的な各役員の報酬額を決定する取締役会を開催します。この際、議事録には「なぜ減額が必要になったのか」という経営上の理由を詳細に記録しておくことが実務上の要諦です。この記録は、法人税法上の「経営悪化事由」を証明する極めて重要な客観的証拠となり、将来的な税務調査において損金算入の正当性を主張する際の盾となります。
役員本人による同意書の取得と事務手続き
決議と並行して不可欠となるのが、減額の対象となる役員本人からの個別の同意取得です。会社と役員の間には委任契約が成立しているため、総会決議があったとしても、本人の合意がないまま報酬を一方的に削減することは契約違反となる恐れがあります。実務では、減額後の報酬額、適用の開始時期、および経営再建のために減額を承諾する旨を明記した「同意書」を作成し、本人から署名捺印を得ることで、将来的な未払報酬請求のリスクを封じます。
これらの法的手続きが完了した後は、速やかに会計上の事務処理へ移行します。役員報酬の額が大きく変わる場合は、社会保険料の「随時改定(月変)」の手続きが必要になるほか、所得税の源泉徴収額の再計算も行わなければなりません。また、未払賃金立替払制度の活用や、後の法人破産を視野に入れている場合は、これらの手順の迅速さが手続き全体の透明性を左右します。一連のフローを滞りなく進めることで、法人の法的安定性を維持しつつ、次の再建ステップへと円滑に移行することが可能になります。
役員報酬の減額における注意点
役員報酬の減額は、法人の法的安定性や税務リスクに直結するため、慎重な判断が求められます。
否認権行使のリスク
将来的に法人破産を視野に入れている場合、報酬の取り扱いには格別の注意が必要です。経営悪化時に特定の役員へ優先的に報酬を支払う行為は、後に破産管財人から「偏頗弁済」や「財産隠匿」とみなされ、否認対象となるリスクがあります。法人の資金繰りと役員個人の再起のバランスを、法的な観点から見極めることが重要です。
社会保険料の改定
実務面では、社会保険料の「随時改定」の手続きを失念してはなりません。報酬額に大幅な変動がある場合、速やかに届け出を行わなければ、過大な保険料負担を強いられ続けます。また、未払報酬を「役員借入金」として帳簿計上し続ける処理は、負債を増大させるだけでなく、役員個人に「受領していない報酬への所得税」を課す不利益を招きます。帳簿上の数字とキャッシュの実態を一致させることは、透明性の高い清算を行う上での鉄則です。手続きの不備は、再出発を阻む大きな障害となるため、正確な現状把握が不可欠となります。
取締役トラブル・役員トラブルについては林法律事務所までご相談ください
基本的には、取締役の報酬については株主総会決議で決められているため、取締役に勤務態度不良があった場合でも、一方的な取締役の報酬減額は難しいといえます。そのため、取締役トラブルに伴う報酬減額等の安直な対応は、逆に損害賠償を支払う可能性もあります。
当事務所では取締役トラブルにも対応をしています。取締役トラブルにお困りの際は、企業法務分野に注力する林法律事務所へ、お早めにご相談ください。
Last Updated on 1月 13, 2026 by hayashi-corporatelaw




