会社経営が立ち行かなくなり、破産を選択せざるを得ない場合、経営者が最も頭を悩ませるのは「従業員への対応」ではないでしょうか。特に、従業員の給与や退職金といった生活に直結する問題は、破産手続の中でも重要な位置を占めます。本コラムでは、会社が破産した際に従業員が受ける影響と必要な手続きについて、弁護士の視点から解説いたします。
会社を破産すると従業員は解雇せざるを得ない
会社が破産手続に入ると、基本的には事業を継続できなくなります。そのため、雇用契約を維持することができず、破産手続の開始と同時に解雇が必要となります。
従業員から見れば突然の解雇となるため、心理的なショックは大きいですが、これは破産手続に不可避の影響といえます。解雇にあたっては労働基準法上、30日前に予告するか解雇予告手当を支払う必要があります。しかし、破産する会社に資金的余裕はないケースがほとんどで、解雇予告手当や未払い給与は「労働債権」として破産手続の中で清算されることになります。つまり、破産=従業員の給与が支払われない、というわけではなく、法律に基づき優先的に清算される仕組みが用意されています。
会社の破産はどのように説明すべき?
経営者が破産を決断した場合、従業員への説明は避けて通れません。特に「給与はどうなるのか」という質問は必ず出てきます。
説明時には、次のポイントを明確に伝えることが大切です。
- 破産に至った経緯(資金繰り悪化、債務超過など)
- 雇用契約が終了する理由と時期
- 未払い給与や退職金が労働債権として優先的に扱われること「未払賃金立替払制度」を利用できる可能性があること
- 従業員が行うべき手続き(失業給付の申請など)
弁護士が同席し、破産手続や給与の法的な整理について説明することで、従業員の不安を和らげる効果も期待できます。
会社破産をした際の未払いの給与や退職金はどうなる?
破産手続では、会社が有する財産を換価し、債権者に分配します。その中で、従業員の給与や退職金は「労働債権」として法律上特別の保護を受けています。
未払い給与
労働基準法により、破産手続においても「優先的に弁済される債権」と位置づけられています。直近3か月分の給与や退職金、30日分の解雇予告手当などが優先弁済の対象となります。
(破産手続開始前3か月間の従業員の給与請求権は財団債権となります。財団債権の場合は、破産手続中に換価された会社の財産から随時速やかに支払いを受けることが可能です。破産手続開始前3ヶ月以前の給与は、優先的破産債権となります。財団債権と異なり随時支払いを受けることはできず、配当手続によって支払いを受けなければなりません。)
不足分の補填制度
会社の資産だけでは未払い給与を十分に支払えない場合、労働者健康安全機構による「未払賃金立替払制度」を利用できる場合があります。条件を満たせば、未払賃金の一定割合(80%)が立替え支給されます。
ただし、全額が必ず保障されるわけではなく、会社の資産状況や立替払制度の対象要件によって変動します。
会社破産に当たって会社が行う従業員に対する手続き
会社が破産する際、従業員に対して行わなければならない手続きがあります。この手続きは破産後の従業員の生活にかかわるものも多いため、きちんと会社が責任をもって行う必要があります。
離職票の手続き
会社が破産する場合、破産してから10日以内に以下の書類をハローワークに提出し「離職票」を発行する必要があります。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 離職証明書
- 解雇通知書の写し
離職票を受け取って初めて、従業員は雇用保険の受給手続きを進めることが可能になるため、従業員が迅速に失業給付を受けられるようにするためにも、早めの対応が必要です。
解雇通知の交付
破産手続に入る場合、従業員との雇用契約を終了せざるを得ません。その際には、労働基準法に基づいて解雇通知を行う必要があります。原則として30日前の予告が必要ですが、資金不足などで予告できない場合には「解雇予告手当」の支払いが義務づけられています。
社会保険の手続き
会社が破産すると、従業員は健康保険や厚生年金から脱退する必要があります。脱退のためにも企業側は年金事務所に以下の書類の提出が必要になります。
- 適用事業所全喪届
- 各従業員の資格喪失届
- 各従業員の健康保険証
社会保険については、再就職先が見つからない場合には従業員個人での加入が必要になり、手続きが必要になるので、脱退後の動きについてもしっかりと説明の時間を設けることが大切です。
破産に関する説明会の実施
従業員にとって会社が破産するというのは、精神的にもショックの大きな出来事であり、不安を感じていますので、説明の時間をきちんと儲けましょう。従業員の最大の関心事は「給与や退職金がどうなるのか」ですので、破産管財人を通じて、労働債権として優先的に弁済されることや、未払賃金立替払制度を利用できる可能性について説明すると良いでしょう。
経営者や弁護士、破産管財人等が従業員に対して直接説明を行う場で、従業員の不安を和らげることに繋がります。
これらの手続きを適切に進めることで、従業員の生活への影響を最小限にとどめることができ、会社側にとっても信頼関係を保ちつつ円滑に破産手続を進めることにつながります。
破産のお悩みは林法律事務所にご相談ください
会社の破産は経営者にとって苦渋の決断であり、従業員にとっても生活の基盤を揺るがす重大事です。適切な手続きや説明を怠ると、従業員とのトラブルが深刻化する可能性もあります。
当事務所では法人破産に関するご相談をお受けしております。
弁護士にご相談いただくことで、
- 従業員への説明内容やタイミングの調整
- 未払い給与・退職金の法的整理
- 労働債権の優先順位や立替払制度の利用可否
- 経営者自身の責任(個人保証や役員報酬の扱い)
といった幅広い問題を的確に整理できますし、なによりも経営者の方が一人で悩まずに済みますので、精神的な負担を軽くすることができます。
大切な会社をたたむにあたってどうするのが最善なのか、従業員の方に対してできることはないのか、一緒に考えてまいりますので、ぜひ一度ご相談ください。
Last Updated on 9月 19, 2025 by hayashi-corporatelaw