近年、企業におけるハラスメント問題は深刻さを増しています。厚生労働省の調査でも、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントに関する相談件数は年々増加しており、企業経営において避けて通れない課題となっています。ハラスメント問題が発生すると、従業員の離職やモチベーション低下だけでなく、企業の信用失墜や損害賠償請求といった重大なリスクにも直結します。
本コラムでは、「職場のハラスメントとは何か」を整理し、企業が直面する法的リスクと、その予防・対応策について弁護士の視点から解説します。
職場ハラスメントの種類と特徴
職場におけるハラスメントは多岐にわたります。以下は企業でよくあるハラスメントの類型です。
パワーハラスメント(パワハラ)
職場における優越的な関係を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える行為を指します。例としては、人格否定的な発言、業務に無関係な私的雑務の強制、過大な業務の割り当て、逆に過小な業務しか与えないなどが挙げられます。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
性的な言動により、従業員の就業環境を害する行為をいいます。異性・同性を問わず発生し、性的な冗談や不要な接触、性的関係の強要などが典型例です。
マタニティ・パタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産・育児休業を理由とする不利益な取扱いや嫌がらせを指します。女性従業員に対するマタハラはもちろん、近年は育児休業を取得しようとする男性従業員へのパタハラも問題化しています。
その他のハラスメント
近年は「モラルハラスメント(モラハラ)」「SOGIハラスメント(性的指向・性自認に関する嫌がらせ)」なども注目されています。社会の多様化に伴い、ハラスメントの形態は広がり続けています。
ハラスメント防止に関する企業の法的義務
ハラスメントに関連する企業の法的義務も年々厳しくなってきています。
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)
2020年に施行された改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)により、企業にはパワハラ防止のための雇用管理上の措置を講じる義務が課されました。
男女雇用機会均等法
セクシャルハラスメントについては、男女雇用機会均等法に基づき防止措置義務が規定されています。育児・介護休業法マタハラ防止については、育児・介護休業法により、妊娠・出産・育児休業を理由とした不利益取扱いが禁止されています。
ハラスメント防止のために企業が行うべき取り組み
ハラスメント防止のために、まずは就業規則・社内規程への明記ハラスメント防止に関する方針を明確にし、就業規則や社内規程に定めましょう。禁止行為や懲戒処分の内容を具体的に記載することで、従業員に周知できます。相談窓口の設置と運用従業員が安心して相談できる窓口を設け、外部窓口を併設することも有効です。形式的に設けるだけでなく、実際に機能させる体制整備が必要です。研修・教育の実施管理職向けのハラスメント防止研修や、従業員全体を対象とした研修を実施し、職場全体での意識を高めることが重要です。
ハラスメントにおける企業と加害者の損害賠償責任
ハラスメントが発生した場合、被害を受けた従業員は加害者本人に対して損害賠償請求を行うことができます。さらに、企業も損害賠償責任を負う可能性がある点に注意が必要です。
加害者個人の責任
加害者となった従業員は、不法行為責任(民法709条)に基づき、被害者が受けた精神的苦痛に対して慰謝料を支払う義務を負います。加えて、治療費や休業損害が発生した場合には、その賠償も求められることがあります。
企業の使用者責任
企業は、従業員が職務遂行の過程で他人に損害を与えた場合、使用者責任(民法715条)に基づいて賠償責任を負う可能性があります。また、ハラスメント防止措置を怠った場合には、安全配慮義務違反(労働契約法5条)を理由に損害賠償請求を受けることもあります。
判例上、被害者が加害者と企業の双方に損害賠償を請求するケースは少なくありません。企業が損害を賠償した場合でも、その後に加害者へ求償できるかはケースごとに異なります。実際には、加害者個人の資力や勤務継続の可能性を踏まえ、企業側が一部または大部分を負担することも多いです。
裁判例に見る損害賠償の相場
ハラスメントに関する慰謝料の金額は事案ごとに異なりますが、数十万円から数百万円に及ぶ例もあります。特に長期間にわたるパワハラやセクハラ事案では、高額な損害賠償が命じられたケースが報告されています。
このように、加害者本人と企業の双方が損害賠償責任を負う可能性があるため、企業としては防止策を徹底するとともに、問題発生時の適切な対応が不可欠です。
弁護士に相談するメリット
ハラスメントトラブルは弁護士に相談するまでもないと、自社内で対応する企業も少なくないですが、弁護士に早期に相談すると以下のようなメリットがあります。
法的な適切対応策がわかる
ハラスメントは法律上の権利・義務が絡む複雑な問題です。弁護士に相談すれば、労働法や民法などの観点から、どのような対応が最も効果的で安全かを具体的にアドバイスしてもらえます。対応策を間違えるリスクを減らし、後のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
証拠の整理や管理が可能
メールやメッセージ、業務記録など、証拠として重要な情報を適切に収集・保管することは簡単ではありません。弁護士は、法的に有効な形で証拠を整理する方法や記録の残し方を指導してくれるため、後々の交渉や裁判でも有利に進めやすくなります。
交渉や説明を代理で行える
被害者や加害者本人が直接対応すると、感情的なやり取りになりやすく、かえって関係を悪化させることがあります。弁護士が代理で会社や相手方と交渉することで、冷静かつ法的根拠に基づいたやり取りが可能となり、精神的負担も大幅に軽減されます。
早期解決の可能性が高まる
弁護士の介入により、感情的になりやすい社内トラブルでも、客観的な視点で状況を整理し、適切な手順で対応できます。その結果、問題が長引くことを防ぎ、迅速かつ円滑に解決できる可能性が高まります。
まとめ
ハラスメントは、従業員個人の問題にとどまらず、企業全体に重大な影響を及ぼすリスク要因です。法的義務を遵守することはもちろん、組織としての健全性を維持し、従業員が安心して働ける環境を作ることが、企業の持続的な成長に直結します。
当事務所では、ハラスメントのご相談をお受けしております。少しでも不安なことがございましたら、ぜひご相談ください。
Last Updated on 9月 19, 2025 by hayashi-corporatelaw